「犬を食べた」「赤ちゃんが泣くと口を押さえた」みんなが聞いた戦争体験 未来につなぐには #戦争の記憶

太平洋戦争の終結から78年、体験者の話を直接聞ける機会は少なくなっている。悲劇を繰り返さないために、今私たちに何ができるのか。「銃弾があと少し心臓に近ければ死んでいたと祖父に傷を見せられ、ボロボロ泣いた」「家の前の木に遺体が引っかかっていたと母から聞いた」「祖父は食糧難で犬を食べた」。ネット上で4000人にアンケートをとると、家族から家族へ語り継がれる戦争の記憶、そして課題が見えてきた。

この記事が伝えたいこと


「仲間が目の前で殺された」事実とは思えなかった10代男性

戦争体験者から直接話を聞いたことはありますか

「戦争」について、Yahoo!クラウドソーシングのユーザー4000人にアンケートを実施したところ、およそ2人に1人が「太平洋戦争の体験者から直接話を聞いたことがある」と回答した。

「誰から聞いたか?(複数回答可)」という質問に対しては、「家族や親戚」が68%、「近所の人」が7%と、大半の人がごく身近なところで話を聞いていた。

みんなが聞いた、過酷な戦争体験


生きるため「犬を食べた」「ヘビやネズミ、木の皮を口にした」

太平洋戦争では、日本人およそ310万人が犠牲になった。そのうち軍人や軍属は230万人で、半数ほどが戦闘による死ではなく、餓死や病死だったことがわかっている。

戦時中、みんなの食生活は?

1944年末ごろになると本土空襲が本格化。戦況が悪化するにつれ、民間人の食生活も厳しくなっていく。それでも勝利のために人々は軍に物資を供出した。アクセサリーや鍋などの金属類だけではなく、家庭で飼育されていた犬猫や馬の毛皮、肉までもが対象だった。

1945年3月末にはアメリカ軍が沖縄に上陸。県民の4人に1人が犠牲になったといわれている。8月6日には広島、9日には長崎に原爆が投下された。2回の原爆で、1945年末までに21万人超が亡くなったとされる。

日本は8月15日に終戦を迎えた。沖縄は終戦から1972年の日本復帰まで米軍の施政権下にあり、今も米軍基地問題に苦しむ。原爆の正確な死者数は現在もわかっておらず、被爆した人々は今も健康への不安を抱えている。


「家の前の木に遺体」親族の体験は強く印象に残る

2年後の2025年には、戦後80年を迎える。悲劇を繰り返さないために私たちができることは何か。埼玉大学教授の一ノ瀬俊也さんに聞いた。

一ノ瀬俊也

――そもそも戦争体験の継承がなぜ必要なのでしょうか。

「当時生きていた人の語りは、権力者が書いた公的な記録や文章にはないリアリティーがある。一般の人が共感しやすいという点で、非常に貴重で残していく価値がある。ただ、世代交代が進むなかで、直接お話を聞くのは難しくなってくる」

体験者から聞いた話を誰かに伝えましたか?

戦争体験者が少なくなるなか、体験の継承は大きな課題だ。一方、「体験者から聞いた話を誰かに伝えましたか?」とたずねると、約半数が「伝えた」と答えた。

「日本で再び戦争が起きることのないよう、わたしたち一人一人が戦争の歴史や記憶について、次世代に継承すべきだと思いますか」という質問には、77%の人が「継承すべき」と答えた。

「母から家の前のお寺の木の枝に爆撃で亡くなった人の遺体の一部が引っかかっていたと聞いた。自分の親族のリアルな体験はとても強く印象に残るので、子や孫にも伝えていくべきだと思った」(60代男性・愛知)

「祖父母の家に行くたびに母から戦争の話を聞いていた。米軍の魚雷で撃沈された『空母大鳳』に乗っていた叔父は、『若くして壮絶な最期を遂げた。そのことを絶対忘れてはいけない』。私と同じ血が流れている人が大戦の犠牲になったことにショックを受け、叔父の死を絶対に無駄にしたくないと思った」(50代女性・大阪)

家族から聞いた戦争体験を、また家族に伝える。身近な関係での継承ができていることが伺えるが、一ノ瀬さんは「社会が変化して、みんな家族がいて話を聞いていけるか、地域社会のコミュニティーが機能して語り継ぐ仕組みができているかというと、難しいというのが現状」と話す。

アンケートの回答者のなかには、「戦争はあまりにも残酷で人間を変えてしまう。自分は経験していないので、簡単には説明できない」「自分には知識も発信力もないのでわからない」などの理由で、「継承すべきだが、自分が積極的に関わるつもりはない」という人も20%いた。

戦争体験の継承に地域差?


「なぜ戦争を学ぶのか」が伝えきれていない

――戦後生まれが総人口に占める割合は86.2%(2021年10月時点)。体験者が減るなかでどう継承していけばいいのでしょうか。

「太平洋戦争に関しては、すでに膨大な記録やコンテンツがある。また、戦後生まれでもそれぞれの世代で戦争との関わりがある。たとえば私が子どもの頃は東西冷戦で、ソ連が攻めてきていつか死ぬと思っていた。今でいうと、台湾危機があり、核実験をしている国もある。ロシアによるウクライナ侵攻は私たちの日常にも大きな影響を与えた。戦後生まれでも戦争に関わる記憶があり、それを語り継いでいくことができる」

――若い世代にも関心を持ってもらうために、重要なことはなんですか。

「学校教育が重要。『何年に何が起きた』というのは丁寧に伝えているが、『なぜ』の部分は必ずしも十分に伝わっていない。なぜ歴史を学ぶのか、なぜ戦争が起き、始まったらどうなるか、起こさないためにはどうするか。『歴史は現状を理解するためにある』ことを共有していく必要がある」

――このアンケートの結果を見て、どう感じましたか。私たちには何ができるのでしょうか。

「多くの人が継承の必要さを感じていることが希望だと感じた。まずできることは、選挙に行くこと。政府が防衛費をどのくらい使って何をするか、国際社会でどんな立場をとるか、みんなで議論に参加する。今と昔の違いは、自分たちの手で権力者を選べること。戦争が起こらないようにという視点で選挙に参加することができる。

あとは、歴史を学ぶ、体験者に話を聞く、映画や書籍に触れる。家庭をお持ちの方であれば、自分の体験や聞いた話をお子さんにぜひ伝えていただきたい」

平和な世界を実現するためにあなたがすべきだと思うことは何ですか?

―――

アンケートはYahoo! JAPANユーザーを対象に6月9日に実施、4000人から回答を得た。そのうち「戦争体験者から話を聞いたことがある」と回答した2224人を対象に、具体的な話の内容を聞く追加のアンケートを6月15日~6月30日に実施し、1848人から回答を得た。


【みんなの意見】戦争の話、直接聞いたことはありますか?

制作:Yahoo! JAPAN「未来に残す 戦争の記憶」編集部

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