「#あちこちのすずさん」は、NHKとYahoo!ニュースとの連携の取り組みです。NHKでは、朝の情報番組「あさイチ」や、「NHKスペシャル」、「クローズアップ現代+」、ラジオ第1放送の「らじらー !」、「ラジオ深夜便」などの番組で「#あちこちのすずさん 」の取り組みを展開しています。
その中で、「あさイチ」の近江友里恵アナウンサーに、「#あちこちのすずさん 」でどのように戦争体験を伝えていこうとしているのか、ご自身の平和への思いなどを「あさイチ」のスタジオにお邪魔してうかがいました。
――番組を通して、どういう思いが視聴者の皆さんに届くといいなとお考えになっていますか。
この取り組みをきっかけに、今までとは違った戦争の一面とか、違った角度で戦争というものを、みんなであらためてとらえ直して、一緒に考える雰囲気づくりができたらいいなって思います。
戦争についておじいちゃん、おばあちゃんから聞くことが、だんだんできなくなってきて、どうしても教科書で習うものとか、そういうものになりつつあるのかなという感じがしています。そういう歴史的事実だけじゃなくて、一般の人がどういう暮らしをしていたのか、どうやって戦争に巻き込まれていってしまったのか、どんな苦しみがあったのか。その一方で、ささやかなどんなことに幸せを見いだしながら頑張ってその時代を生きてきたのかとか、そういったことをみんなで情報を寄せ合って、みんなで話し合って考えていける、すごくいい機会だなって思います。
「あさイチ」は女性が多く見てくださっている番組なので、とりわけ衣食住、暮らしのことにすごくアンテナを張っている方が多いので、そういった方が寄せてくれる情報ってすごくリアリティがあると思いますし、当時、一般の女性たちがどういう生活をしていたのかっていうことも、エピソードとしていろんなものが集まるといいなという気持ちもあります。
――今まで集まってきている中で、近江さんの心に残っているエピソードとかって何かありますか。
長崎の方のエピソードで、戦争で食料事情が厳しくなっていく中での「すいとん」についてでした。
当時、すいとんが主食だったそうで、すいとんって粉を水で溶かして手で丸めて練って作るものですね。普通は丸いのがすいとんだと思うんですけど、子どもを抱えているお母さんが、貧しく楽しみもない中で、すいとんを粘土みたいに、ウサギの形とか何か動物の形にして、子どもたちに食べさせてくれたっていう。少しでも子どもたちが楽しめるようにって。でも、そのお母さんも、直後に長崎の原爆で、爆風で吹き飛ばされて、幸い命は落とさなかったけれども大変な思いをしたというエピソードが寄せられたんです。夫が戦地に行って、一人で子どもを守らなきゃいけないお母さんがどういうふうに子どもを守って、少しでも不安な気持ちをなくそうと頑張っていたのかっていうことが見えてきたエピソードだと思いました。
母と子が一緒にすいとんを練ったりしていた、その様子が目に浮かぶようなエピソードでした。
「あさイチ」では、中学時代に戦争の話をしてくださった当時の先生に、近江さんが会いに行くという企画が放送されました。その先生は、貧しさから自ら陸軍に志願し、特攻機で出撃する直前に終戦になって生き残ったことを、近江さんたち中学生に語ってくれたのでした。
――教室で先生の特攻の話を聞いたときには、どんな印象だったか覚えてらっしゃいますか。
とにかくびっくりして、クラスがシーンとなったという。
すごくおもしろくて、みんなを笑わせてくれる先生だったのですが、突然、真剣な表情になって。「私は特攻隊として、あとちょっとで爆弾を積んでパイロットとして命を落とすところだったんだ、でもたまたま助かって、ここにいるんです」っていう話を突然、授業と関係なくされて。
みんなポカーンというか、シーンと静かになったんですけど。それもあってか、すごく先生のことをみんな大事に思っていたし、突然そんな話をしてくれて。でもその後、深くは聞けなかったんですけど、もっと聞けばよかったと今となっては思うんですけど。
当時は、先生に深く突っ込んで聞くことはできなかったんですけど、でも何か心の中に引っかかりを残しておいてくれて、ありがとうございます、という思いです。先生がそういう話をしてくれていたので、今、大人になって、じゃあもうちょっとそのことについて聞いてみたいなとか、どうして志願して特攻隊のパイロットになろうと思ったのか、そういう気持ちに至った背景は何だったのか、というのを大人になって改めて調べてみようと思うきっかけになったので。
――近江さんは、どういうときに平和だなって感じますか。
いま日本って比較的安全で、夜になっても、女性1人でも出歩けるというところがありますよね。戦時中は、部屋の明かりも消さなきゃいけなかったということをいろんなエピソードで読んで、そんなこと考えたこともなかったなって。唯一の明かりとして、ホタルを集めて竹かごに入れていたっていうエピソードも番組で紹介したんですけど、そんな状況っていまの日本だと全く考えられないし、そんな恐怖を感じたこともないので、平和だなっていうふうに思います。
――今回、ヤフージャパンと一緒に取り組むことについてどんなふうに受け止めていらっしゃいますか。
インターネットでたまたま記事を目にした人が、すずさんの映画『この世界の片隅に』を見てみようかなとか、NHKのサイトを見てみようかなとか、番組を見てみようかなとか、そういうことってすごくあると思うんで。ふだん、なかなかあさイチを見られない学生の皆さんとかも、そういう活動があるんだっていうのを知ってもらえるのかなと思うと、特に若い方にも参加してもらえるんじゃないかなという意味では、すごくヤフーさんと一緒に取り組むというのは大きいことだなって思います。
みんなまずスマホでニュースを見ますので、たどりついてくれたらいいなって思います。
――この「#あちこちのすずさん」というコーナーを届けていく、これはどういう思いを伝えて、視聴者の方にどう受け取ってもらいたいということですか。
NHKは毎年、特に8月に戦争関連の特集番組を放送してきましたが、いくらいい番組を放送してもなかなか若い方々に届いていないのではないか、それを何とかしたいという思いがあったので、今回、「#あちこちのすずさん」という取り組みを通して、特に若い人に過去の戦争のことをもっと知ってもらいたい、興味を持ってもらいたいと思っています。
「あさイチ」というのは、特に30代から50代の女性に多く見ていただいているので、そういった方々にも戦争について知ってもらいたい。もちろん10代、20代の方も含めて、少しでも多くの方々に知っていただきたいという思いがあります。
――ここまでで、若い方からの反応・手応えとかはありますか。
「あさイチ」で、「#あちこちのすずさん」関連の企画をこれまで2回、放送したんですが、番組のインスタグラムへのアクセス数が、1回目は3万7千件だったのが、2回目の時は23万件、つまり6倍にも増えているなど、大きな手応えを感じています。番組も、8月10日(土)放送予定のNHKスペシャル「#あちこちのすずさん」の1本だけではなくて、今回のように「あさイチ」でも、同じテーマの企画を放送したり、ラジオ第1の「らじらー!」という番組でも取り上げたり、「ラジオ深夜便」という番組でも放送したりとか、いろいろな番組やネットなどで多角的に展開することで、より広がっていくんじゃないかなと期待しています。8月下旬の「あさイチ」でも、「#あちこちのすずさん特集」を放送する予定です。
――若い人たちはどういう切り口にすれば、より届くというのをお考えになっていることはございますか。
もちろん戦争は悲惨で、本当に大変な時代だったけれども、今回は、戦時中の暮らしに特に注目することによって、普通の人たちの平凡な暮らし、例えばちょっとした恋愛があったりとか、家族の楽しみがあったりとか、そういうささやかな普通の暮らしが戦争によって壊されてしまったということ。ごく普通の暮らしがあったことを伝えることで、戦争の本当の姿がよりリアルに伝わるんじゃないかと。これまでとは少し角度を変えることで、特に若い人に戦争について関心を持っていただけたらと思います。
その時代を生きていた、ごく普通の人たちの、ごく普通の暮らしが戦争で壊されていく、その怖さを深い意味で伝えていけたらと思っています。
――ヤフーと今回一緒に取り組むことはいかがですか。
やっぱり今はネットの時代ですよね。若い人だけじゃなく、今は年配の方も含めてネットの情報が不可欠で、例えばYahoo!ニュースのトピックスなどでみんなが情報を得ている時代ですから、そういう時代に、とても大切な戦争のことを一緒に伝えられるっていうのは、またとない機会だと思っています。
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