戦場にいる兵士が家族や知人に宛てて書いた私信「軍事郵便」を紹介。戦いの合間に書いた手紙からは、兵士としてではない、一個人の想いが伝わってきます。
拝復 皆様の御元気な様子を書面にて拝見し、心から喜んで居ります。南国では相変らず暑いです。然し健康第一主義を以て働いて居りますから、大丈夫です。私達が只今住んで居る家は、かつて英人が驕り住った別荘です。水道等も自由に使ふ事が出来ます。
■■で見る様に、此処は■■■した唯一の大都市です。住民も■■の他■■■■■■■■■等が沢山住んで居ります。然し忙しい私達も一ヶ所にそう長くは居られません。近く■■方へ行く事と思ひます。便もきっと後れ勝ちになる事と思ひますが、不悪。
日夜たゆまず心にかけての神願、何と御礼を申してよいやらわかりません。野戦の事故、かの一件も意の如くならず、今の処書籍も無用の有様です。心にかけての皆様の心情、たゞ奉公を以て報ゆる他はありません。皆さん元気で働いて居ります。
※文中の■■■は、検閲をうけた結果での黒塗り箇所です。
元気な大人らしい御便りを載き非常に嬉しく存じます。皆様益々元気の由誠に心強く思って居ります。自分も相変らず元気です。御安心下さい。今夏の暑さは如何でした。むし暑い日が毎日続いた事でせう。富美ちゃんの御勤めも初は気にかヽってなりませんでしたが、御便りにより立派に役立って居るとの由何よりも嬉しく存じます。さぞつらい事もあったでせう。或時は寒気に又或時は暑さになやまされつヽ、なれぬ仕事に精出された富美ちゃんの御辛苦御察し申上ます。日々栄え行く共販所の中枢として活躍され、今では立派なお姉さん否先輩者として立派にやって居られる事は、無上の嬉しさであり感謝に堪へません。何分体を大事にしてお働き下さるやう。こちらも未だ明けやらぬ雨期続きで雨が降ったり止んだりして居ります・今日は丁度よく晴れた十五夜のやうな晩です、静かな営内には絶えず蛍が飛び廻って居り、時々草むらから蛙やくつわむしなどの鳴く声が聞えて参ります。丁度晝間が夏で晩が秋と云ふ様です。秋だけは内地よりも早く来るのかも知れませんね!―兎も角日中は室外百二十度位ですから雨期明けの暑さが思ひ遣られます。然し住めば都です、御安心下さい。
こん夜の様によく晴れた晩には庭先に椅子などを持ち出して班長さんを初め環の様になって昔こひしい内地の思ひ出話しに花を咲かせるのです、涼風に吹かれながらそれはそれは楽しい一時なのです、内地の皆様は今頃何して居るだらう、あの子はなにして居るだらう、誰しも思はぬ人は御座いません、
偶作
夜更けまで語らう者のともしびは
ふるさと遠き秋の夜の月
今夜の様な名月をきっと内地の皆さんも何処かでながめておいでヽせう。晝間もらった富美ちゃんの御便りを班長さんと二人で片手に持ってにこにこと読んであげましょ。故国の便り、皆さん黙って黙ってと綴る文句の茶目さぶり、お臍も変る面白さ、中にも銃後の乙女を慰問してなどヽ書いてあり、笑顔で見合す顔と顔、さぞや故国を思ひ出し楽しい夢をは結ぶでせう。花咲く富美ちゃんの御便りほんとうに有難う御座いました。戦地の黒ん坊の戦友からもよろしくとの事です。益々元気で御慰問下さる事を一同望んで居ります。
聞く所に依ると内地は今年の初めより点数制とか聞いて居りますが、まだそう云ふ御便りを受取らず残念に思って居ります。内地のニュースとして何卆御知らせ下さい。皇軍勇士は深く皆様を信頼し少しも心配など致しません。
新聞なども沢山送って載いて一ヶ月前位のは見る事が出来ます。戦況やら内地のニュースやらで、盟主たる祖国の健全なる姿を偲び心強く思って居ります。当地のニュースとても既に御知らせした如く、今は復興の意気高らかなビルマ全国民が、平和郷への力強い進軍を続けて居ります。市内には映画館が開設され日曜の外出には容易に見られます。又大和撫子の姿も非常に多く、将兵を初め異国人の眼を奪って居ります。ビルマには目下日本語が非常に普及され、日本語学校などの開校を見、老人を除くすべての人が日本語を知って居ります。勿論上手下手はありますが、ほんとうに驚く許りです。こうした共栄圏のお友達を得た日本の人々は、お父さんお母さんであり、又富美ちゃんなどは立派なお姉さんなのです。立派なお姉さんとして恥しくない様に一生懸命努力して下さい。敬子ちゃんも女学校で一生懸命勉強致して居る事と存じます。
愈々実りの秋を前にして、尚一層奮闘されて、優秀の成績を以て進級されん事を遥かに御祈り致します。又二人の御姉さん方の御盡力を大いに期待して止みません。自分も不幸にして手続の遅延により志望が達せざりしも、決して不覚は取らぬ充分な自信を持って居りました。そして今尚持ち続けて居ります。時間も大分過ぎました。失礼致します。
では皆さん御体御大切に!!乱筆にて御免下さい。
ビルマ南都○○○―○にて
博美
面白い 富美ちゃん江
小野木隊は封書許可ならず、仍て本部隊名に依り差出したるも、左記宛何卆御返信下され度願上候。
ビルマ派遣林第五八六五部隊小野木隊 小泉博美宛
二伸、下作の油屋の木所隆次君も、すぐ近くの部隊に元気で居ります。